冬病夏治

今年はずいぶんと早い梅雨入りでした。もうすぐ本格的な夏が到来しますね。

夏は万物が成長し、花が咲き栄え、陽の気が強い季節です。精神的にも肉体的にも、多すぎる陽気を体外に発散させることが、この時期の東洋医学的養生法です。それは、夏に暑気にあうと(しん)が活動して血が循環し、血が変化した汗を出して陽気を外に発散し、暑さに負けないよう身体を調節していると考えられているからです。現代の生理学においても、発汗による体温調節については皆様よくご存知のことと思います。

マスク生活での熱中症が心配されています。閉じこもりにより心が鬱々しやすくなりますね。エアコンが効きすぎた部屋で体表面のみ冷却し、外出時はマスクを着けて(殆どの場所では必要ではありますが…)過ごすことは、先に述べた陽気の発散に反しています。コロナ渦中の生活スタイルは、夏の養生法の真逆になり、体内に鬱熱を生じやすい状態です。これが続くと熱中症にまでならなくとも秋冬に体の変調をきたしやすくなります。

結果として、体内にこもった熱気は、気の働きを弱め、消耗させてしまいます。江戸時代の貝原益軒の著書で有名な「養生訓」には、四季の中で夏の養生が最も大切と書かれています。湿度・気温が高い夏は、体への負担が強いためにその過ごし方を重視したものと思われます。このように夏に養生して冬に備えるというのが、タイトルの「冬病夏治」の意味です。

 

コロナ対策をしつつ気を上手に発散し、夏を少しでも快適に過ごす手段の一例です。

   日出が早いので早起きをする。

   人出の少ない朝に河川敷や海岸、公園などを散歩したり、体操などの軽い運動をする。

   人出のない戸外ではマスクをはずす。

当たり前のことですが、マスクをしないですむ環境に行き、身体を動かし、体内の熱を外に発散することです。

なお、冬の養生法としては活動を控えることが原則ですので、冬にコロナの再流行の波が押し寄せてきた場合は家にこもることは理に適っています。

 

ここからは、国際医学学術誌に掲載された報告によるコロナウイルス対策です。最新の知見をもとに、普段の生活の中でできる対策を紹介します。

まずはビタミンDの摂取です。体内のビタミンD量が少ないほど、新型コロナウイルスの感染率と死亡率が高くなるというイギリスの報告があります。また、ビタミン量の低い人は、急性呼吸器感染症に罹患する可能性が高い報告もあります。ビタミンDは、日光浴をすると体内で合成されます。人出の少ない場所への朝の散歩は、気の発散と併せてビタミンDの体内合成促進という二重の意味で重要と言えるでしょう。

次は緑茶のお勧めです。緑茶に多く含まれるエピガロカテキンガレート(EGCG)が新型コロナウイルスとの強い結合性を持つことを示した研究結果が報告されています。少し専門的になりますが、この研究は薬の有効成分を探す際に用いられる分子ドッキング法という手法を用いて行われています。ここでは、2018年に抗ウイルス作用があると報告された食材中に含まれる生理活性物質18種と、比較対照物としてレムデシビルとクロロキン(この2種は新型コロナ感染症の治療で使用されています。)について調査されています。18種の生理活性物質のうちEGCGが、レムデシビルやクロロキンと比較してもウイルスとの結合活性が最も高い結果が示されました。他にもクルクミンやアピゲニン等が高い活性を示しています。この結果をもとに、著者らは、EGCGを治療薬剤の候補としてもっと研究されるべきと述べるとともに、推奨摂取量を出してくれていますので紹介します。

緑茶(EGCG):80℃程度で抽出したお茶を一日に3~4杯飲む。

ターメリック(クルクミン):ぬるい牛乳と混ぜて一日に3杯程度飲む。

カモミールティー(アピゲニン):5~10分間熱湯で蒸らして一日に2杯程度飲む。

 

緑茶は、薬膳的には「涼性」であり、頭や目をスッキリさせ、体内の熱を冷まして火照りや渇きを除き、消化を助けて胃腸の蠕動運動を良くする働きを持っています。コロナウイルス対策を考慮にいれずとも、夏にいただく飲料として好適です。